新設中学校へ転勤になったことがある。
4月1日、転任になった教師は新入生のように期待に胸ふくらませて、バリバリの新築校舎に
集まった。入学式を1週間後に控え、初めて足を踏み入れた未使用の校舎は当然だが美しく、
壁に足跡もついていなければ床にガムのカスもこびりついていないピカピカだった。
ガラス張りのドア、広くて装飾を施された玄関ホール。
それまで木造校舎やプレハブ、トムとジェリーのように本当にネズミ穴が空いた学校やら、
ボロい勤務先ばかりだった俺は狂喜した。
ところでスタッフの初顔合わせから開校まで、立ち上げに1週間か、と思われた民間の方は
いらっしゃるだろうか。短いと思われるかそれで十分だと思われるか俺には分からんが、
公立学校はそんなものだ。今日のネタはそのことではないので、話を先に進める。
運動場に出て校舎を見上げた俺達は、あることに気づいて絶句した。そして頭を抱えた。
教室にベランダがある(ToT)何言ってるんだ、ベランダぐらいいいじゃないかと思うだろ? ところが違うんだな。
こういう設計の校舎は、「生徒指導上」とんでもない欠陥品なのだ。
「」をつけたのは業界用語だから(笑) どういう問題があるのかこれから説明する。
そんなもん分かってるぞ、と苦い顔をした教師は、この記事はパスしてよろしい。
晴れた日の昼休み、2階の教室のベランダに出て運動場を眺めながら談笑する中学生たち。
下を通った友達に笑顔で手を振る。チャイムが鳴ると教師が下から声をかける。
「おーい、授業始まるぞ〜、教室に入れよー」「はーい!」明るく答える女生徒たち。
入札で設計を請け負った工務店の設計士は、そんな学園青春ドラマの1場面を想像して
図面を引いたんだろうな、きっと。
現実はどうだったか。
開校後数年たち、学校が荒れ始めた。荒れた原因は校舎とは関係ない。また別の機会に書く。
ベランダを物置代わりにして体操服や靴やら置いていたうちはまだよかった。
マンガ本やらお菓子やら不要物を隠していたのも、まあご愛嬌だ。
終りの会をやっていてふと気づくと、隣のクラスの男子が数名ニコニコ笑ってベランダに立ち、
窓から覗きこんでいた。知らん顔して入り込み、欠席者の机に座っている奴までいる。
ベランダはその階の教室全部を貫通していた。つまり隣のクラスもその向こうもイケイケな。
「お前ら何してるんだ?」「うちのクラスもう終わったから」「廊下で待て廊下で」
「ういーっす」「こら、中を通るな中を。自分のクラスに戻れって」
ベランダを脱出通路にして、授業中にいつのまにかいなくなる奴が出てきた。
そして他のクラスの後ろをネズミのように走り抜けて、廊下へ出て行くのである。
イケイケベランダの手すりは、安全を考慮して鉄格子でなく腰上のコンクリ壁だった。
この構造だと、腰をかがめてベランダを通れば教室の中からも外からも見えないのである。
だんだん状態が悪化してくると、ベランダに座り込んで煙草を吸う奴が出てきた。
たとえば体育や音楽や美術や、移動教室のときに授業をエスケープしてクラスに戻り、
ベランダに隠れてくつろいでいるのである。
生徒がいなくなったら、当然教師は探し回る。教室やトイレなら中をのぞくだけだが、
ベランダに座り込まれると、いちいちベランダまで出て行かないと発見することはできないのだ。
終いには、ベランダにマンガ本や他人の教科書やプリントを積み上げて焚き火を始めた。
ここに至って、ついにベランダは封印された。すべての教室のベランダに通じるサッシ戸は
ネジ止めされ、ベランダに出ることは出来なくなった。
その後、この中学校で封印が解かれたかどうかは知らない。俺は転勤したからだ。
荒れたのはベランダのせいじゃない、ダメ教師とケダモノ生徒のせいだろうって? ごもっとも。
設計士が夢見た平和な学校が理想に決まっている。しかし公立中学校の現状はこうなのだ。
荒れた学校ではベランダは凶器となるそして問題点は、俺達教師が新築校舎のベランダを見たとたん予測したことが、そのまま
現実になったという事実の方だ。それが分かっていて、なぜ新設校にベランダをつけたかって?
現場の声を聞かずに設計したからだよ業者に発注して学校を作らせたのは、教育委員会の、設備とか施設とか管理の担当部署。
つまり基本的に教育現場を知らない行政の事務方だな。たまたまその時その部署にいただけで、
学校の施設にどんな仕様がいいのか、現場で何が予想されるのか分かるはずも無い。
だからといって、事務方がいちいち現場を視察して回る必要はない。
必要な仕様さえ把握できていれば、きっちりと業者に発注していい校舎が出来上がる。
本当の問題は、現場の声を取り入れて仕様を決定するシステムができていないことだ。
これは俺達現場の教師に解決できる問題ではない。しかし事件は現場で起きている。
教育委員会にいる指導主事、つまり現場を知っている元教師にがんばってもらう他はない。
教育委員会がいったい何をしているのか、一般の人には分かりにくいだろうが、
こういったプロデュースも業務のひとつだ。…って、実は出来てないんだけどな(笑)
実は教育のハード面に無関心な教師も多い。「与えられたもので努力するのが我々の仕事」とか
戦前みたいなことを平気で言うジジイもいる。与える時点で努力しろよ。
一方で組合が直接校舎設計を仕切っている地域もある。いい仕事もしてるんだけどな。▼座布団1枚!と思ったらクリックよろしく
