前回の続き。仕事を持って帰る話をもう少し。
個人情報保護法とそれにのっとる条例のおかげで、過去何十年に渡って続けられてきた教師の業務スタイルの一部が成立しなくなっている。
テストの採点や学期末の評価など、持ち帰り残業を前提として、その分の時間を部活や生徒指導に回してきたわけだが、個人情報の持ち出しが禁止された時点で、このやり方は通用しない。
通用しないどころか、従来のやり方を続ければ教師は犯罪者になり減給や戒告処分を受ける。
この矛盾を解決する方法は提示されていない。
管理職は原則として授業をしないから、採点もしないし成績も出さなくていい。
「個人情報の持ち出しや紛失は処分対象となるので十分注意せよ」と繰り返し俺達に伝えるだけ。
具体的な方策の指示はない。無理難題なのは分かっていても、なんとも出来ないのが実情だ。
いったん事件になれば、自分も監督責任を問われるわけだから、お互い様か。
愚痴をこぼして終わるのは教育毒本の趣旨に反するので、俺が方策を考えてみる。
持ち帰り残業とそれに起因する個人情報紛失を防ぐにはどうすればよいか。
次の3つの前提で考えてみる。
(1) 人を増やす
(2) 物を増やす
(3) 人も物も増やさない
●人を増やすこれは単純明快。教師の数を倍にしてくれたら、ほとんどの問題は解決する。
5割増しでもずいぶん良くなる。3割でも違いは出る。俺がいつも言っている通りだ。
ただしこれは一番金がかかるので、効果は分かっていても実現の可能性は低い。
学校は工業製品の生産所ではないので、機械化や納品・在庫の効率化はできない。
歩留まりという発想で規格外品を廃棄することもできない。
人(生徒)の相手をするのは人(教師)である。
教師を減らせば減らすほど、生徒一人あたりの教育サービスを受ける濃度は薄くなる。
ミノフスキー粒子は戦闘濃度で散布しなけりゃ意味がないのだ(意味不明)。
ということで、授業数から事務まで仕事内容は激増しどんどん忙しくなってきたのに、
人は減る方向で、今まで以上に持ち帰り残業をせざるを得ない状況に追い込まれている。
成績を出すのだって、昔の3倍も4倍も手間のかかるやり方になっているのだ。
人が増えて毎日の授業数が減れば、事務処理に回せる時間が増える。
俺達は授業のない時間を空き時間と呼んでいるが、この時間にお茶飲みながら新聞読んだり
ネットを見たり雑談したり、のんびりくつろいでいると思ったら、それは誤解である。
20数年前ならともかく、今は事務処理で手一杯。そもそも空き時間が1日1時間だったり、
ひどいときにはゼロだったりする。空き時間ゼロでは中学校では担任の業務はできない。
ほら、生活ノートとか班日記とかあるだろ、毎日提出するやつな。あれ見られないもん。
朝集めて帰りには返すのに、6時間授業が詰まっていてはどうしようもない。
え? 給食の時間に見ろって? そんなことぐらい普通にやってるよ。食いながらチェック。
だからノートにソースついたりしてても大目に見てくれ。時間がないんだよ。
●物を増やす人を増やすのが無理なら物を増やす。初期投資さえすれば実はこっちの方が安上がりだ。
ちょっと前までITと言っていたが、いつのまにかICT(Information and Communication Technology)に変わっている。生徒用のパソコンも結構だが、業務用のパソコンも本気で整備する時期に
来ているのではないだろうか。まあ、エアコンでも何でも公立学校は一番最後だけどな。
さすがに今は職員室に公用パソコンの2台や3台はあるが、俺はずっと自前の機械を使っている。共用のパソコンなんか、自分の使いたいときに誰かが使っていて思うように仕事ができん。
10分の休み時間にも必死でキーボードを叩いているくらい、やることは山積みだ。
で、本当に使える業務用のパソコンだ。スタンドアローンの機械なんかいくらあってもダメ。
たとえば職員全員にネットワークPCを1台ずつ配布する。記憶メディアは無し。
成績処理も名簿も通常文章も学級通信も、業務上のファイルは全部、教育委員会のサーバーに
保管。その市なり町なりすべての学校を一括管理。
とりあえずここまでが第一段階。民間企業でも役所でもこれくらいは普通だ。
公立学校ですでに実施されているところもある。個人情報ファイルも一括管理できるし、
職員会議で無駄な紙のプリントをバサバサ印刷しなくて済む。
第二段階として、このPCを学校の外へ持ち出せるシステムと条例を整備する。
ファイルはサーバーに置いたまま、端末だけを別の場所で使用するということだ。
PCは指紋認証等で盗難に備え、有線でも無線でもいいが自宅からでも安全にアクセスできる
セキュリティを整備しておく。ネットやファイルへのアクセスログはサーバーで取れるから、
自宅でどれだけ仕事をしたかも分かる。これで残業時間を計算してくれても構わない。
しかし、この第二段階システムは持ち帰り残業を前提としているので、逆にどんどん仕事を
増やされるかもしれないという諸刃の剣でもある(笑)
テストの採点はどうするかって?
マークシートで自動採点だな。入試でもセンター試験でも普通に使ってるだろ。
記述式問題は人力で採点すればいい。最近の観点別評価だと本当に有難いシステムになる。
ついでに小テストやら何やら、成績処理もまとめて全部処理できるシステムを作ってくれ。
こんなものは学校独自にやれるものじゃないが、全国規模でシステム導入すれば割安でいけるぞ。
教育再生会議では教育の合理化とか盛んに言っているが、予算を削るばかりが能じゃない。
マークシートは業者に外注することになる。たとえばテストの2週間前に原稿提出とか。
今までのテスト製作のスケジュールではダメだ。ずいぶん早めに用意しておかないと。
昔々、「暁の特攻隊」とか「朝焼け特急」とか「朝駆け輪転機」とか言ってたことがある。
テスト製作が遅れこんでいって、テストの当日、早朝に印刷機を必死で回して印刷することだ。
さすがに最近はこんなやばい綱渡りをやっている教師は見かけなくなった。
●人も物も増やさない本当はこんな夢のないことは考えたくないのだが、実は現実に一番近いので心の準備をしておく。
人も物も増えず、制度も教育内容も変わらなければどうしたらいいのか。
沈みかけた船で、積荷を捨てたら何とかなるとすれば、何を捨てるか?
まさか乗客を捨てるわけにはいかん。乗組員が自分で飛び込むのも無責任だ。
人を捨てるわけにいかないのなら、積荷を順に捨てるしかない。
こうなったら部活動を切り捨てるしかないなにも部活を全面廃止しろとは言わない。だけど7時までやるところを5時半で抑えるとか、
週に2日は部活休みとか、土日のうち1日は必ず休むとか、根本的に発想を変えるべきだ。
20年30年前、自分が中学生だった頃と同じ調子でやっていたら、片っ端から教師が消耗自滅して、
しまいには学校そのものが沈没する。学校の中も社会も、これだけ環境が変わっているのだから、
仕方ないじゃないか。勇気を持って何を優先すべきか考えようじゃないか。
国や自治体のバックアップもなく教師が自分の力でできることは、それくらいしかないのだから。
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